(1)リサーチクエスチョン
RQ1) 産学連携・地域連携活動に積極的に取り組む研究者のインセンティブ構造はどのようになっているのか。
また、積極的に取り組まない研究者のインセンティブ構造はどうなっているのか。(3大学間の比較+琉球大学)
RQ2) 産学連携・地域連携活動へのインセンティブ構造に対する所属組織や環境影響は存在するか。
また、それはどのように働いているか。(3大学間の比較+琉球大学)
RQ3) RQ1,RQ2で得られた結果は一般化可能か(3大学の分析の結果がどこまで一般化可能か?
他大学や組織でも事例をあてはめられるのか?
(2)リサーチクエスチョンの作成プロセス
行政側の問題意識は、「教育基本法において教育・研究・社会貢献の3つのミッションが大学に課せられている。しかし、それぞれのミッションに関する評価システムはバラバラに政策的検討が行われており、大学教員へのインセンティブ付与の重要な手段である評価システム全体の一体性確保や政策的な要求に応じて全体を整合的に改善するための指針が欠けている。」という点にある。
この問題を解決したいという行政ニーズに対して、研究側から、「産学連携をテーマとした研究、教育、社会貢献に関わる大学研究者の評価に関する研究」の提案があった。行政側と研究側双方の考え方について、面談・議論を行い、行政側からはあらためて問題意識の説明や仮説の提案などを行い、研究側からは研究側代表者である鈴木氏らが高知大学で携わってきた水産系若手研究者の養成及び産学連携関係の文部科学省プログラム(IMT:イノベーティブマリン研究者育成)での経験をもとに、そこで採用されてきた人材がミッションをもとにどう成長と変化を起こしたのか、組織にどういう影響を与えたのかなど時系列で追うという研究提案の説明があった。そもそも従来の産学連携は大学教員対企業研究者の個対個とされ、地域連携も相手方は自治体担当者や地域住民など、似た状況である。
一方で、近年は組織対組織の連携により、大学は個人の研究者のみに依拠せず他分野複数の研究者による複層的なアプローチにより産学連携・地域連携の目的達成を目指すことが推奨されている。大学の教育研究の成果を着実に実社会に還元するためには、従来の個対個から組織対組織の連携へと発展させ、研究者にも組織的な連携への従事に高いインセンティブが与えられるべきと我々は考えている。
本提案で中心的に取り上げるIMTは、海洋の開発・利用のための世界的研究拠点の形成を目指すものであり、地元自治体や産業界との組織的連携が意図されてきた。本研究で得られる結果は、特に今後の組織対組織の連携に対する研究者のインセンティブ構造を明らかにするうえで重要である。この面談・議論を通じて、行政側としては、評価システム全体の整合性や各要素がもたらす相互作用のあり方を明らかにするという最終的なゴールに至るまでの具体的な研究プロセスとして、研究側から提案のあった産学連携・地域連携の視点からのアプローチとその有効性を理解した。また、研究側に対して行政側の問題意識は産学連携や社会貢献の視点に留まるものではなく、産学連携の観点からさらに飛躍し、教育・研究を含めた俯瞰的な研究への拡張を目標に掲げることが研究との共進化に向け必要である旨を主張した。
一方の研究側は、研究の現場及び組織論に根ざすボトムアップの議論の枠組みを国レベルの政策全体の枠組みや議論の状況の中でどのように位置づけることができるか、理解と考察を深め、政策との共進化に向けた方向付けについて認識を得ることができた。また、相互の対話を経て、政策レベルと研究者レベルの間に存在し、かつ実務的に極めて重要な大学等の組織について特に注目すべきであることが見いだされた。この点については、研究者だけでなく組織内の専門人材についても分析スコープに追加してはどうかとの提案が行政側から追加的にあったことも踏まえ、リサーチクエスチョンの設定や研究計画に反映することとした。
以上の議論を経て、最終的なゴールとして「教育」「研究」「社会貢献」の諸活動の評価の相互作用の全体像を明らかにするというビジョンを相互に共有しつつ、その前段階として「社会貢献」の中でも重要な位置を占めるとともに、「教育」「研究」の中間的機能も果たしうる産学連携・地域連携に焦点を当てて分析をはじめることとし、そこから目指す全体像へと分析を拡張していく戦略をとることで合意した。また、分析は、行政(政策)レベル、大学等の組織レベル、研究者個々人のレベルの3つの階層の視点を意識して行うこととした。
具体的なリサーチクエスチョンの策定に向けては、国の審議会等でたびたび指摘され、また研究側の現場の視点からも課題として認識される「(特に地方大学で)若手研究者が産学連携を含む社会貢献活動に積極的に取り組まない」のがなぜか、という点を仮の出発点として議論を開始した。仮説として、教員評価における社会貢献の位置づけが未だ不明瞭であり、かつ他大学へ転籍する場合にまったく異なる価値観で評価される不安も生じることから、社会貢献活動に取り組むことが将来のキャリアアップにつながるという確信が持てないことが原因ではないかと考えた。これは見方を変えれば、教育や研究に積極的に取り組むことでキャリアアップにつながるという確信を得ているのではないか、という仮説の裏返しであり、最終的なゴールへもつながるものである。この仮説に基づくと、現状を変えるためには、解決すべき2つの問題の存在が考えられる。
1つは「教育」「研究」「社会貢献」の評価システムがバラバラであることであり、この解消のためには「教育」「研究」「社会貢献」の相互作用の結果として得られる成果を定義づけるとともに、重要度を同程度に高く設定する必要があると考えられる。
もう1つは教員個人の評価と大学の組織としての評価のリンクが不明瞭であることである。
教員個人が「教育」「研究」「社会貢献」の全てを高いレベルで相互作用させることは限界があると捉え、組織としてトータルに相互作用させ、循環させる考えも必要である。そして、組織としての相互作用を考える上で、組織内に配置され活動する専門人材は潤滑油として極めて重要な役割を果たしていることが予想される。
を作業仮説として上記3つのリサーチクエスチョンを設定した。