プロジェクトの目標

本プロジェクトが解決を目指す政策課題は現在の政策議論の枠組みに対してメタレベルの非常に困難な問題を論じている。そのため、まずは準備ステージとして、モデル化の見通しを得ることを目標に取り組む。「教育」、「研究」、「社会貢献」の3つの観点のすべてをはじめから研究のスコープに入れることは難しいが、社会貢献活動の一部である産学連携・地域連携については、教育活動と研究活動の中間的なものとして位置づけられることも少なくなく、学術的にも教育や研究との関わり方は関連学会でしばしば話題に上るテーマであり、先行研究の蓄積もあることから、産学連携・地域連携を突破口として、社会貢献につながるモデル化の見通しが得られるかを検討する。具体的な研究方針としては、高知大学、和歌山大学、九州大学の3大学の組織レベルでの取組事例の深掘り調査及び所属教員等へのアンケート調査・分析を行い、それらの相互比較を通じて機能別評価が教員等の行動へ与える影響をモデル化することを目指す(琉球大学にも適宜応援要請をおこなう)。高知大学は文部科学省のCOC/COC+事業を通じて産学連携や地域連携活動への取組を軸に優れた教育・研究活動へ展開することで「教育」「研究」「社会貢献」のバランスのとれたあり方を追求してきた地方国立大学であり、和歌山大学は社会貢献の取組が豊富な都市近郊型の地方国立大学である。一方の九州大学は対照的に研究志向型の都市部大規模国立大学である。

鈴木千賀・文部科学省SciREX事業産学連携・地域連携活動に取り組む研究者のインセンティブ構造に関する研究

これら3大学の比較は、政策課題として設定している大学教員の活動を俯瞰的に把握・評価するための政策的議論の枠組みを考えるに当たり、想定される典型的な類型であり、これらの比較を通じて、モデル化に向けた基礎的なエビデンスが得られることが期待できる。なお、所属教員等へのアンケート調査・インタビューに当たっては、教員(役職者含む)だけではなく、大学に所属する産学連携/地域コーディネーターやURAといった専門人材も調査・分析の対象として含む。なぜなら、これらの専門人材は、多忙な教員をサポートし、また大学組織全体を俯瞰的に捉えた活動を行うことで大学という組織レベルと個々の教員のレベルをつなぐ機能を果たしており、分析やモデル化に当たっての重要なポイントとなる可能性が考えられるためである。その他忘れてはならない重要な視点として「首長や地域との良好な連携関係の保持」もある。大学や教員にやる気があっても関係先との良好な信頼関係やその環境が整っていなければ産学連携やその先の社会連携は成し得ない。地域の産学連携組織関係者や首長らにも外から大学を見る形でのインタビューが叶うのならばオンライン研究の強みを生かしてその実施も検討する。さらに、特筆すべき産学連携・地域連携事業については、3大学内に限らずに一般化を目的とした追調査(インタビュー)も実施する。

また、研究者のインセンティブ向上に対して、リーダーが果たすべき役割についても調査検討する。なお、その様な成果を最短で得る上で我々の体制は他の追随を許すことはない。代表である鈴木は、国務大臣経験者を始めとする政府、大学理事、首長、各種法人理事との強固な人脈をもつ。研究実施者(高知大学)の受田は、大学の組織的な産学連携・地域連携の現場を長く務めており、理事としての業務、地域の産業振興、国の常設会議委員等を歴任している。文部科学省産業連携・地域支援部会 地域科学技術イノベーション推進委員会主査代理も務めた経験を持つ。準備ステージの段階からその本質に迫る研究成果を生み出すことが期待できる。

鈴木千賀・文部科学省SciREX事業産学連携・地域連携活動に取り組む研究者のインセンティブ構造に関する研究

以上の方法や体制を通し得られた学術的な研究成果については、学会発表や学術誌あるいは学術図書への投稿・刊行をおこなう。また、研究に並行して、研究の進捗状況や部分的成果を文部科学省局横断・萌芽的政策検討チームに定期的に報告・議論する。この局横断・萌芽的政策検討チームは、所掌や既存の政策的枠組みにとらわれず、自由な政策的議論を行うために文部科学省内に設けられたチームであり、既存の枠組みに対してメタレベルの問題を提起する本プロジェクトに関する議論を行うために適した場である。さらに、各機能別の評価システムを担当する局課(産学連携・地域支援課産連課 地域支援室 岸良優太専門官)と対話を進め、準備ステージから共進化実現ステージへのステップアップに向けた政策面からの論点抽出等を行う。また、機会が得られれば関連の審議会等での発表・報告を積極的に行うことで、メタレベルでの新たな議論の枠組みとして提示し、共進化実現ステージ向けた政策的議論の地盤固めを進める。